乳腺線維腺腫は良く乳癌と誤診されます。乳腺良性腫瘍の代表格です。実は真の腫瘍ではありません。一種の過形成と考えられています。管内型、管周囲型、類臓器型、乳腺症型に分類されます。
境界明瞭な腫瘤で、硬度は弾性硬から硬いものまであります。通常2〜3pの腫瘤を自覚して受診する例が多いとされ、10pに達するものもあります。若い女性に発生するものは急速に増大するものもありますが、必ずしも年齢と関係ないこともあります。単発例が多いですが、多発例や両側性もあります。
生活様式や食生活の欧米化に伴うホルモン環境の変化により最近上皮成分の増生の著しい線維腺腫が増加してきていて、増殖した腺成分は乳管癌様に見え、乳癌と誤診されることが多いのです。乳癌の合併例は極めて稀であり、合併例は小葉癌です。つまり、良性腫瘍と言う前提で対応致します。
3cm以上を越える腫瘍も定期観察で増大変化を示すものは多くはありません。3cm以上のもので多発していても授乳に支障をきたすことはなく、乳房が変形するような急速増大例以外は安易な手術摘出は避けるべきとされています。もし摘出手術を勧められた場合はセカンドオピニオンをされるべきです。
診断は針生検等による組織診断が基本となります。細胞診では良悪性の判断のみで、良性の葉状腫瘍との鑑別は困難です。但し、画像診断にて乳癌を線維腺腫と誤診される例は当院でも良く見掛けます。昨年年末には全国乳癌手術件数2位のS路加国際病院での乳がん検診でマンモグラフィーとエコーを受け線維腺腫と診断された34歳の方は、当院に受診され非浸潤性乳管癌と診断された例には驚きました。また、ブレストクリニックや乳腺外来にて、腫瘍に対して吸引細胞診を行いclassUにて良性の診断にて乳腺線維腺腫と診断され、数週間後に当院を来院され、浸潤性乳管癌と診断した例が今年だけでも数例あります。当院のある板橋区内のN大学病院に精密検査で受診し細胞診で良性にて乳腺線維腺腫と診断され、その後当院来院にて組織診断で浸潤性乳管癌を診断された例が数例あり、他の大学病院の乳腺外科でも、同様な事があり驚きます。また、何れも乳腺エコーでは明らかな乳癌と診断出来る画像で、エラストグラフィー検査を行なうと青く染まり、明らかな悪性と診断を即座に出来ました。特にこのような例は40歳未満の若い方が多いです。逆に、病理組織診断にて乳腺線維腺腫と診断された方には誤診がなく、乳腺病理医にはレベルの差があるにも関わらず、この腫瘍は乳癌とは間違わないのでしょう。
画像上悪性を疑う場合は、吸引細胞診のみの診断は注意が必要で、針生検などの組織診断を受ける必要があると感じます。比較的線維腺腫はエコー画像上見分けは付き易く、他の良性腫瘍よりかは誤診に繋がり難いと思います。特に、エラストグラフィー検査は特に有用かと考えます。